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沖縄本島および周辺離島の湧水・井戸・カー

―はじめに―

人間活動において、新鮮な真水の確保は重要な課題である。

沖縄島、特に中南部や本部半島には石灰岩が広く分布する。
石灰岩は水を透しやすい性質があり、下位の不透水層の上に地下水が貯まる帯水層が形成される。
段丘崖や断層崖で両者の境界が露出している箇所では地下水が地表に現れて湧水となる。
それらの湧水は天水(雨水)とともに人々の暮らしの支えとなった。

石工技術の発達とともに、各地で「カー」と呼ばれる採水・貯水施設が整備された。
カーでは生活に必要な水を得たほか、洗濯や水浴、儀式などが行われ、子供の遊び場、住民の憩いの場ともなっていた。
水道技術が確立されると、簡易水道の水源として利用されるカーも増えていった。

やがてやんばる地域にダムが建設され、上水道が整備されるとカーは水源としての役目を終えた。
それでも多くのカーが今なお畑や庭の散水に利用されたり、田圃を潤したりしている。金武町では湧水を利用した養鰻も行われている。

沖縄では水場が信仰の対象となっているため、カーの施設がよく保全されている。
しかし、今現在どこにどれだけのカーがあるのか、それぞれのカーがどのような様子で残っているのか、よくわかっていない。
カーの数は沖縄県全体で1000を超えるとも言われている。

今回、卒業研究の一環で沖縄島および周辺離島のカーを実際に見て回り、マッピングおよび簡易的な水質測定を行った。
それにより得られた位置情報と写真は個人の趣味の範囲内と思われるため公表したい(※1)。
湧水めぐりの一助となれば幸いである。

なお訪問にあたっては、沖縄本島中南部お散歩マップ/沖縄本島中南部の湧水(カー)を大いに参考にさせていただきました。
この場を借りてお礼申し上げます。

※1:さしあたって位置情報のみ公開(随時更新)します。写真ページは未整備です。気長にお待ちいただければ……

―各地の「カー」―

ここでは、
・拝所が付随しているもの
・拝所はないが、明らかに外部からの訪問者に配慮した立地になっているもの
・固有の名称が与えられているもの
・町内の案内板で紹介されているもの
・外部の人間が水を汲めるよう整備されている湧水
のいずれかに該当するものを掲載対象とした。

地域 市町村 参考資料(発行年順、太字は所持しているもの)
全県:長嶺操(1998)『琉球の水の文化誌』沖縄村落史研究所.
全県:上里勝寛(2022)『沖縄の湧水・井戸 見て歩き』琉球新報社.
沖縄本島北部 国頭村 津波高志ほか(1981)『沖縄国頭の村落(上巻)』新星図書出版.
国頭村史『くんじゃん』編さん委員会(2016)『村制施行百周年記念 くんじゃん 国頭村近現代のあゆみ 資料編』国頭村役場.
大宜味村 津波高志ほか(1981)『沖縄国頭の村落(上巻)』新星図書出版.
大宜味村史編纂委員会 シマジマ専門部会(2014)『新大宜味村史「シマジマ・ビジュアル版」 わーけーシマの宝物』大宜味村役場.
東村 津波高志ほか(1981)『沖縄国頭の村落(上巻)』新星図書出版.
名護市 津波高志ほか(1981)『沖縄国頭の村落(下巻)』新星図書出版.
名護市史編さん室(2003)『名護市史・本編9 民俗Ⅲ 民俗地図』名護市役所.
今帰仁村 津波高志ほか(1981)『沖縄国頭の村落(上巻)』新星図書出版.
名護市史編さん室(2003)『名護市史・本編9 民俗Ⅲ 民俗地図』名護市役所.
本部町 津波高志ほか(1981)『沖縄国頭の村落(上巻)』新星図書出版.
名護市史編さん室(2003)『名護市史・本編9 民俗Ⅲ 民俗地図』名護市役所.
恩納村 津波高志ほか(1981)『沖縄国頭の村落(下巻)』新星図書出版.
宜野座村 津波高志ほか(1981)『沖縄国頭の村落(下巻)』新星図書出版.
宜野座村教育委員会(2005)『宜野座村の文化財集(1)-遺跡・拝所・グシク・水場-』
金武町 金武町教育委員会(2003)『金武町文化財調査報告書 第2集 金武町の井泉 ―水をめぐる人々のくらし―』.
沖縄本島中部 うるま市 うるま市発行のガイドマップ「うるま市の遺跡(PDF)
沖縄市 沖縄市発行のガイドマップ「文化財マップ Cultural Assets Distribution Maps
読谷村 読谷村文化財保護委員会(1981)『読谷の文化 第三集 民俗地図資料編』読谷村教育委員会.
読谷村発行のガイドマップ「読谷村の字ガイドマップ 読谷村史編集室
嘉手納町
北谷町 北谷町史編集委員会(1994)『北谷町史 第三巻 資料編2 民俗 下』北谷町役場.
北谷町教育委員会(2006)『北谷町文化財調査報告書 第24集 北谷町の地名―戦前の北谷の姿―』
北中城村 北中城村役場(1996)『『北中城村史』民俗編 付録 民俗(地名・旧跡)地図』
中城村 中城村教育委員会(2004)『中城村の文化財 第5集 中城村の拝所』
中城村HP『中城村報告書 戦前の集落シリーズ | 発見!なかぐすく』
宜野湾市 沖縄県宜野湾市教育委員会文化課(1996)『口承民俗文化財記録保存調査報告書 「ぎのわんの西海岸」 ―土地利用・地名・海(イノー)・自然―』
宜野湾市教育委員会文化課(2012)『市民民俗芸能調査報告書 ぎのわんの地名 ―内陸部編―』宜野湾市教育委員会.
沖縄本島南部 浦添市 浦添市史編集委員会(1983)『浦添市史 第四巻 資料編3 浦添の民俗』浦添市教育委員会.
浦添市教育委員会(1988)『浦添市文化財調査報告書 第13集 浦添の地名』
浦添市教育委員会(1990)『浦添市文化財調査報告書 第17集 浦添市文化財悉皆調査報告書』
那覇市 那覇市教育委員会文化課編(1986)『那覇市歴史地図 ―文化遺産悉皆調査報告書―』那覇市教育委員会.
那覇市小禄南公民館(2012)『小禄の拝所(うがんじゅ)』
与那原町 与那原町立綱曳資料館ホームページ
糸満市 糸満市HP『糸満市の歴史と民俗を歩く「屋号地図」』
豊見城市 豊見城市市史編集委員会 民俗編専門部会(2008)『豊見城市史 第二巻 民俗編』豊見城市役所.
南城市 佐敷村文化財保護委員会編(1975)『昭和50年度 佐敷村文化財要覧』佐敷村教育委員会.
佐敷村文化財保護委員会編(1977)『昭和52年度 佐敷村文化財要覧』佐敷村教育委員会.
玉城村役場企画財宝室(1997)『グスクとカー(湧水・泉) 水の郷』沖縄県玉城村.
大里村教育委員会(2005)『大里村文化財調査報告書 第7集 大里村の民俗文化財』大里村.
西原町 西原町教育委員会 生涯学習課 町史編集事務局(発行年不明)『GUIDE MAP 西原町の自然と文化』
南風原町 南風原町教育委員会(1991)『南風原の文化財 文化財要覧第3集』
沖縄県南風原町史編集委員会 民俗部会(1994)『南風原歴史民俗地図(1935年頃) 60年前の南風原』
八重瀬町 具志頭村文化財保護委員会(1997)『具志頭村の文化財 文化財要覧第1集』具志頭村教育委員会.
東風平町教育委員会(2003)『殿・御嶽・井戸調査報告書』

―「カー」とは何か―

カーとは、沖縄において湧水や地下水を得ることのできる、井戸を含む施設の総称である。
地域によって「ハー」「ジャー」「ワク」などとも呼ばれる。
「井泉」「川」「河」「井」などの漢字が当てられるが、沖縄で流れる川のことは「カーラ」「ハイカー(走川)」等と呼ばれ、カーとは区別されている。ただし、沖縄本島北部地域では流れる川のことも「カー」と呼ばれており、それらの川も信仰の対象となっている。中南部地域では川が流れていてもそのようなことはほとんどない。
水を流す樋が設けられたものは「ヒージャー」あるいは「ヒージャーガー」と呼ばれ、「樋川」の漢字が当てられる。

カーの形態には大きく分けて2つのタイプがある。
一つは崖や斜面から滲み出る湧水を集めて樋の中を流すもの、もう一つは地面を地下水面の下まで掘り下げて人工的な池を設け、そこに地下水を貯留できるようにしたものである。
前者で得られた水はそのまま排水されることもあるが、後者の貯水施設と組み合わせて貯められるようにしているところが多い。
渇水期に枯渇しないよう箱型の貯水タンクが設けられているところもある。

―「カー」の名前―

カーにはそれぞれ名称があるが、異なる村落間で共通する呼び名が多く見られる。

規模・水量・重要度によるもの
・ウフカー、ウフガー、ウプガー、フプガー(大川)

方角
・アガリヌカー、アガリガー(東の井)
・イリヌカー、イリガー(西の井)
風水の関係で、東と西は特に重要なようだ。ハイヌカー(南の井)、ニシヌカー(北の井)等もないこともないが、少ない。

村落内での位置関係
・メーヌカー、メーガー(前の井)
・クシヌカー(後の井)
・ウィーヌカー(上の井)
・シチャヌカー、シムヌカー(下の井)
・ナカヌカー(中の井)

性質・形態
・ミーガー(新川):新しく掘ったカー
・ヒージャー(ガー)(樋川):樋で水を落とすタイプのカー。樋と流れる水がヤギ(沖縄の言葉でヒージャー)の顎と髭に似ていることから、と言われる
・クラガー(暗川):ドリーネの底などにあって内部が暗いカー
・ミートゥガー(夫婦井):特に井戸で、夫婦のように左右2基並んだカー。縁結びのために拝まれることがある
・ソージガー:白水の意で清水を表す

役割
・ウブガー(産井):正月の若水を汲んだり子供が生まれたときに産水を汲むカー。地域で最も重要なカーで、各集落に必ずあると言っても過言ではない。ウブガーの他に固有の名称を持っていることがしばしばある
・ソージガー(禊井):禊(みそぎ)をするカー
・ノロガー、ヌールガー(祝女井):祝女(ノロ)の方が村の祭祀で身を清めるカー。普段の水汲みや洗濯に用いられないためか小規模な井戸であることが多い

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